沿岸航法:Coastal Navigation(AOKI・BCC以上)
海図の仕組み 海図の使い方 航路標識の意味 灯台の光り方
海図 Nautical Charts
海図は道しるべ
沿岸航法は全ての航海術の基本である。天文航法やエレクトロニクス航法も、位置決定の基本は沿岸航法に基づいている。
目的港へクルージングするためには、沿岸であれ外洋であれ、まず自艇の位置を知ることが必要になる。位置を知り、そして航路上の安全を図るためには、陸上の地図と同じように、その道しるべとなる海図を欠かすことは出来ない。
夜までに港へ着けるのだろうか。浅瀬に乗りあげる心配は無いのだろうか。あの島影は何処なのだろうか。
不安を減らし、余裕を持つ事が、海の旅を一層楽しくする。そのためには、海図上で位置を知るだけでなく、事前にクルージング計画を立てることも必要となる。
海図はメルカトル図法
海図は地球表面を縦横の2方向から見た図である。しかし海図を地球の中心部から眺めれば、自ずと3次元の立体となる。
下図で地球を縦に分割した線が経度である。横に輪切りにした線が緯度となる。経度は両極に近いほど間隙が狭くなる。しかしその縦横の線をほぼ平行とし、紙の平面へ写し取ったものが、地図である。
このような地図の原理はよく知られているように、メルカトルによって、1569年に発明された。海図はこのメルカトル図法に基づいて、位置が表現されている。メルカトル図法では赤道よりも極付近が実際よりも大きく表現される。
従って海図上で距離を測るには、経度ではなく緯度を使わなければならない理由が、お解かりいただけるだろう。


距離は緯度目盛りを使う
ここで本ページ右端の縦目盛りをご覧いただきたい。この目盛りは緯度を表している。北緯39度と北緯36度の上に、灰色の棒線を二本引いてあるのがおわかりだろうか。この二本の棒線は同じ長さである。しかし目盛りによると下側の棒線は1度であるのに、上側は0.71度となる。
海図上で距離を計る時には緯度を使う。しかもほぼ平行した高さの目盛りを使わなければならない。以上の二点が海図上で距離を測るときの注意点である。
縮尺が緯度によって相違している事は、地球を8分割した下の図で比べると、さらにわかり易い。左側の地球表面は、海図上では右側の平面として表示される。すると左側の実際の距離であるA−A’とB−B’は、海図上で現される右側のA−A’とでは大きく違うことがわかる。
また海図上の距離は緯度1分を1M(マイル)とし、緯度1度を60Mとする。キロメーターは使わない。

海図に採用されている基準の表記
- 発行者:Authority: 海図を発行し、その内容についての責任者。海上保安庁水路部、NOAA(米国)、British
Admirality Charts(英国)などがある。
- 海域名称:Title: 海図がカバーする海域名を、表題として大きく記載している。たとえば「野島崎から潮岬」など。
- 海図番号:Number: 同じ海域の海図でも、海図番号によって区域が区分されている。
- 投影図法:Projection: 海図には使用している投影図法が、表記されている。メルカトール図法以外にも、狭い海域にはステレオ図法が採用されている時がある。
- 縮尺:Scale: たとえば1:120000の縮尺と表記されていても、それは海図上の特定の緯度上における縮尺である。
- 測地系:Horizontal Geodetic Datum: 地球形状の表現方法に関しては、歴史的地域的に100種類以上がある。わが国では東京測地系を採用してきた。しかしGPSとのずれがあるため、わが国でも最近は世界測地系(WGS-84 datum)の海図を発行している。どちらの測地系かは海図上に記載されている。
- 水深基準面:Chart Sounding Datum: 海図に記載されている水深は、潮汐の干満のどのような状態に基づいているか、記載されている。灯台や山の高さ、橋の高さなど、それぞれ何種類かの基準が一枚のチャートに採用されている時がある。
- 水深と高さの表記:Soundings & Height Units: 水深や高さはメートルやフィーと、ファザムなどがある。しかし今では英国海図もメートル表記を採用している。
- 縮尺:Horizontal Scale: 海図に縮尺が表記されている時は、縮尺が合致する緯度が示されている。同一緯度においては、記載の縮尺を使用する事が出来る。
- GPSとの整合性:GPS compatability: ほとんどの海図ではGPSでの測位を、使用する事が可能である。しかし仲には19世紀の測量に基づいている海図も、まだ存在する。世界測地系に基づいていない時は、海図上に修正値が示されている。
- 海図の訂正:Corrections & Edition: たとえば1996年発行の海図でも、適切に訂正作業がされていれば、2001年においても使用する事が出来る。発行者による訂正の記録は、海図の下左隅に表記されている。
海図記号の情報と内容
- 水深:Depths reduced to Chart Datum: 水深は略最低低潮面(天文学的に最も低くなる水面高さ:M.L.W.)からの深さで表されている。たとえば
(35) と表記されている時は、 3.5m(メートル)の水深である。(04) の時は40cmの水深である。
- 等深線:Isobaths: 等深線は同じ水深の各点を結んで記載されている。depth contours.
- 物標の高さ:Heights reduced to Chart Datum: 高さは略最高高潮面(天文学的に最も高くなる水面高さ:M.H.W.)からの高さで表されている。灯台や山、がけの高さなどが、これに該当する。
- 潮汐:Tidal information: 上げ潮流時および下げ潮流時に流れる、潮の流速や流向は、必要な箇所に矢印で表されている。
- 浮標・標識:Buoys & Marks: 浮標、標識、灯台船などが表示されている。
- 灯台:Lighthouses: 灯台の高さ、光の色、光の届く距離、光の特徴などが記載されている。
- 底質:Seabed qualities: 海底が岩であるのか、砂、海草などであるのかが、表示されている。
- 磁気偏差:Magnetic Variation: 偏差とは真の北極と磁石が示す北極との角度の差である。海図のコンパス図(コンパスローズという))の中に偏差が表されている。
- 陸地の目標:Conspicuous positions on the shore: 陸地にあっても航海に役立つ目標は、海図に位置が記載されている。鉄塔、山頂、建物などがある。
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